山形地方裁判所 昭和29年(行)4号 判決
原告 鈴木右平
被告 日本電信電話公社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が昭和二十九年二月十二日原告に対してなした原告の加入電話山形電話局二、四九一番の使用料を昭和二十九年三月一日より基本料月額金六百円、市内通話料一通話毎に金七円とする旨の意思表示は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、請求の原因として、原告は昭和二十五年六月二十八日より山形電話局二、四九一番の加入電話(単独)を使用して現在に至つている。そして被告と電話加入者との関係は公衆電気通信法(以下単に公衆法と称する)によつて規制されるのであるが、同法によれば原告と被告とが右電話の加入契約を結んだとみられる昭和二十八年八月一日において電話の使用料は定額料金制により月額金千八百円と定められていた。ところが被告は昭和二十九年二月十二日原告に対し一方的に昭和二十九年三月一日より原告の右電話使用料を度数料金制により基本料金月額六百円、市内通話料一通話毎に金七円とする旨の通告をなした。原告の加入する山形電話局は公衆法第四十四条に規定する五級局であるが、五級局においてはその電話の料金制度を定額料金制より度数料金制に変更することは現行法上おそらく被告が自由になしうるところと解される。然しそれから直ちに五級局内の個々の電話加入者の意思を無視して度数料金制による料金を徴収することができると解することはできない。五級局においては度数料金制によつて料金を支払う電話加入者と定額料金制によつてこれを支払う電話加入者との両者が併存するのであつて、電話加入者がそのいずれに属するかは各電話加入者と被告との合意によつて決せられるのである。原被告間の電話の使用関係は所謂公企業の契約による利用関係であり、其の契約内容は原告は公衆法第六十八条に法定された料金を支払い、被告から法が定める又は予定する電話サービスの提供を受けることにあり、右サービスと料金とは対価関係に立つもので、結局右契約は双務契約である。而して右のサービス価格の理論については既に西暦一九〇七年米国ウイスコンシン大学教授コモンズ博士の提案と一八七〇年のグレンジヤ運動に関連して起つたマン対イリノイ州事件として騒がれ注目された公益企業料金についてはウイツト裁判長によつて明快な判決が下されている。その判決の趣旨とするところは要するに約束も制定法もない場合には公衆の生活に重大な影響を及ぼす企業についての料金の制定変更は公共善の範囲内においてのみ許されると云うにある。現行法上被告が電話加入者に提供すべき役務につき交換設備の容量、疎通の迅速度、正確度、信頼度、混信及び噪音の排除等については明示規定はない。然しその反対給付である電話料金については法はこれを厳格に規定している。この点は国有鉄道の運賃と同様に所謂料金法定主義の支配を受けるものと解されているところである。然して電話の料金が厳格に法定されている所以のものは、被告が独占企業体として民衆に君臨し、且不当な料金を押し付けることを防ぐためであること説明を要しない。以上の如く原告と被告との電話の利用関係は契約関係(有償、双務)であり、その料金は厳格に法定されている限り、一方的に定額料金制を度数料金制に変更することを許す明文の規定はない(上述の如く明文のないことは被告も認めているところである)のであるから、被告が一方的に法定料金を勝手に変更することは絶対に許されぬものである。法治国においては制定法又はそれに基く授権による場合でなければ、国家と雖も人民の権利又は利益を侵害しえないとされている。右原則は日本国憲法においても明定されている処である。ましてや契約関係に立つ被告が明示の法規も電話加入者の同意もない場合電話加入者に不利益な結果をもたらす料金制度の変更をなしえないことは明白である。ところで被告が原告に対してなした料金変更の意思表示によれば、原告が従前と同様に電話を使用するとすれば、この料金は従前の二倍以上になるのである。このような意思表示は契約違反であつて無効たるを免れず、原告を拘束しない。又仮に原告が一方的になした料金制変更の意思表示が一応効力を有するとしても、定額料金制を度数料金制に変更した結果、電話加入者に倍額以上の負担を課するような電話の料金制は極めて不合理であつてかかる不合理な料金の支払を一方的に強制する原告の意思表示は権利の濫用であつて無効であると陳述し、被告の述べた法律上の見解について次の如く述べた。被告は電話料金は附合契約たる電話加入契約の約款である公衆法及び電信電話営業規則(以下単に規則と称する)に基き定まると主張するが、法律用語としての約款の名に値するものは少くとも法律行為の一態様であつて、絶対規範性を持つ法律とは別異に扱われるべきものと解されている。然る限り電話の利用関係を規制する公衆性は約款的性格を帯びているとは解されるが、約款そのものとは云いえない。勿論規則はいずれの点からみても約款的性質を持つものではなく、被告内部の単なる事務取扱規定に過ぎない。以上のことを前提とする限り公衆法は、第一次的に法解釈原理により、第二次的に約款解釈原理によつて解釈されるべきである。然して約款の解釈原理は今日必ずしも明確ではないが、少くとも約款の拘束力は本人の意思に反しえないこと、又約款の内容は契約の相手方がこれを知つていたか又は知りうる状態にあらねばならぬとする点は確立している。従つて約款の解釈については右のことから更に次の三つの原則が生れる。即ち瞹眛な約款は約款作成者の不利に解釈されるべきこと、相手方不知の場合、締約に当つて明瞭に指示しない点、負担加重の条項は効力がないこと、不相当な条項は無効であることの三つの原則である。次に被告は度数料金制が各級局を通じて合理的であると主張するけれども、公益企業における料金構成において、第一次的基準としてサービス原価によるべく、第二次的基準として需要者におけるサービス価値によるべしとする要請がある限り、加入電話数の多い電話取扱局における度数料金制は右の第二の要請にあてはまるが加入電話数の少い電話取扱局においては度数料金制は右第一の要請からして不適当とされている処である。然る限り各級局について度数料金制が理想であることを前提とし、五級局と六級局においては度数料金制の実施が可能になるまでの間過渡的に定額料金制をとりうるとする法意である旨の被告の見解は理由がないものと云わなければならない。次に被告は、五、六級局における定額料金制は度数料金制移行までの過渡的なもので、右移行の可能性を条件としているものであると主張するが、公衆法に右の趣旨の明文は存せず、隠れた文言が相手方を拘束する云われはない。この点は前述の約款の解釈原理からしても同様である。又被告は規則第二百九十四条第二項を引用して、被告が一律且つ一方的に料金制度を変更することが許されている旨を主張するけれども、同条項は定額料金制を度数料金制に変更したときについて規定するのみで、それ以上右変更を許した規定でもなく、又そのようなことは規則を以て規定しうる処でもないから、これを以て被告の主張を理由ずけることはできない。又被告は加入電話数の増加によつて定額料金制から度数料金制に一律に移行する場合があることを援用して、本件の場合被告において一方的になした料金制度の変更を理由ずけているけれども、加入電話数の増加の場合はその旨の法律の明文の規定がある場合であつて、本件の場合と異る。以上のように述べた。(立証省略)
被告代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告がその主張の加入電話を使用していること、山形電話局が公衆法に規定する五級局であること、昭和二十九年二月十二日被告が原告主張のような度数料金制実施の通知をなしたこと、それ以前の料金が原告の主張のとおりであつたことはいずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを否認すると答え、次のとおり附陳した。公衆電気通信の役務は、その本来の機能から迅速且つ確実なことを要するとともに、その公共的性質から、遍く且つ公平に利用できることが要請されるが、そのためには厖大な施設を維持し管理し進んでこれを拡張しなければならず、それに伴い巨額の費用が必要である。電話使用料は電話使用の対価として加入者から徴収されるものであつて、右費用の充足の手段に外ならず、その料金内容は附合契約たる電話加入契約の約款である公衆法及び電信電話営業規則(以下単に規則と称する)に基き定まるものである。しかして同法は、第一条に合理的な料金と云うことをうたい、第六十八条第一項別表第二において具体的に電話使用料の基準を定めているが、その基準には度数料金制と定額料金制とがあり、そのいずれによるべきかは同法第四十四条に規定する電話取扱局の種類によつて法定されている。すなわち、最も加入電話の数の多い一級局から順次に四級局まではすべて度数料金制により、加入電話の数の少い七級局以下はすべて定額料金制によることに定められており、ただ中間の五級局及び六級局だけは度数料金制及び定額料金制の二本建となつている。そこで五級局及び六級局はいかなる場合に度数料金制により、いかなる場合に定額料金制によるべきかについていささか疑義が生ずるが、この点は同法が一級局から四級局までに度数料金制をとり、七級局以下に定額料金制をとつた趣旨に徴して明らかにすることができると考えられる。同法が加入電話数の多い局につき度数料金制を定めた所以は、加入者の電話使用による受益の割合の一部は電話使用の頻度にかかると共に、電話役務の経費の一半も使用頻度に依存するものであるから、電話使用料はその一部を加入一口毎に均一にかけ、残余は使用頻度に対応して徴収するのがその面でも合理的且つ公平であるばかりか、よつて電話の濫用を防ぎ迅速、確実、あまねく且つ公平な役務の提供を可能にする上からも相当と認めたからであり、また加入電話数の少い局について定額料金制を定めたのは、すべての電話局につき度数料金制をとるのが理想であるが、それには特別の設備と余分の手数及び経費を要するので、にわかにこれをすべての電話局に実施することは不可能なためやむを得ずなした措置に外ならない。すなわち、同法が五級局及び六級局につき度数料金制及び定額料金制を定めたのは、当面の目標として、これらの局に可及的速かに度数料金制を採用する方針の下に、その実施可能な時までの間過渡的に定額料金制をとりうるとする趣旨に外ならず、換言すれば、右法条は度数料金制の採用をその実施可能性と云う条件にかけるとともに、電話局が速かに必要な設備を整えて度数料金制を実施することを要請し且つ設備の整い次第度数料金制によるべきことを定めている法意と解しなければならない。かように同法は、度数料金制を合理的なものとし五級局及び六級局については、設備の整い次第度数料金制を適用することを定めたものであつて、規則第二百九十四条第二項も「定額料金制を度数料金制に変更したときは、(中間省略)その旨及び期日をその電話局に掲示し、その電話取扱局所属加入者に通知する」ものと規定し、個々の加入者を区別せずして一律且つ一方的に料金制度を切り替えることを予定している。五級局又は六級局が定額料金制を度数料金制に切り替える場合に、これを個々の加入者の意思にかけるときは、加入者間(従来の加入者間及び従来の加入者と右料金制度変更後の新規加入者間)の負担の公平を欠き、著しく不合理な結果になること、また五級局が加入電話数の増加と云う個々の加入者の支配外の事情により四級局に昇格したときは加入者の意思にかかわらず、当然度数料金制が適用されること、又同法第四十五条第一項は電話取扱局を左の二種に区別することとして、度数料金局と定額料金局とを定め、両料金制の併用局を掲げないばかりか、同条第二項は度数料金局の加入電話のうち、定額料金制により得るものを特に別に公社が定める種類に属するものに限つていること、料金制度変更について加入者全員の同意がなければこれを行いえないと云うが如きことは事業の性質と相容れないこと等から考えても、同法は一方的且つ一律的な料金制の切り替えをその規定の前提として認めているものと云ふことができる。よつて原告の請求は理由がない。以上のように述べた。(立証省略)
三、理 由
原告は、被告が昭和二十九年二月十二日原告に対してなした原告の加入電話山形電話局二四九一番の使用料を同年三月一日より基本料月額金六百円、市内通話料一通話毎に金七円とする旨の意思表示は無効なることの確認を求めると云うのであるが、その趣旨は結局規則第二百九十四条第二項所定の手続を以てなされる山形電話局の料金制を定額料金制から度数料金制に変更する旨の被告の行為が無効であることの確認を求めることにあると解されるのでこの点について判断することにする。しかるところ原告が昭和二十五年六月二十八日より山形電話局二四九一番の加入電話(単独)を使用して現在に至つていること、右山形電話局が公衆法に規定する五級局であること、昭和二十九年二月十二日被告が原告に対し原告主張の如き度数料金制実施の通知をなしたこと、それ以前の電話料金が原告主張のとおりであつたことはいずれも当事者間に争いがない。ところで被告のなした度数料金制に変更する処分の効力について判断する前に、電話利用関係の法律上の性格並びにその内容について考える必要がある。電話事業は被告の営む独占事業であるが、被告は日本電信電話公社法によつて組織された所謂公法人であり、被告の営む電話事業に講学上公企業と解せられるものである。而して被告の有する電話事業の物的並びに人的設備全部は所謂営造物と称せられるものに該当する。従つて人民が電話を利用する関係は営造物の利用関係として考えることができる。然し電話の利用関係が営造物の利用関係と考えられるからと云つて、それだから直ちにその利用関係が全部公法関係であると云うのではない。現に営造物たる電話の利用関係は原則として私法上の契約関係であると解せられている。然し営造物の利用が私法上の契約によつて開始され、その関係が私法の適用を受ける場合でも、その利用関係の内容は個々の契約者の意思によつて決せられるのではなく、原則として法令並びにその範囲内で営造物管理権者の定立する営造物規則によつて画一、定型的に決せられるのである。従つてかかる場合営造物利用に関する契約は所謂附合契約と称せられるものに、右の営造物利用条件を定めた法令又は営造物規則は所謂約款と呼ばれるものに各該当するわけである。又その利用関係継続中であつても、国又は公共団体若しくは営造物管理権者は法令又は営造物規則の改正によつて利用関係の内容を一方的に変更することも可能であつて、これを以て契約違反と云うことはできない。そしてこのような利用関係継続中の契約内容の変更は、附合契約の約款において予想されたものと考えることにより、結局は契約法によつて説明することも必ずしも不可能とは云い難いであろうが、むしろ国又は公共団体若しくは営造物管理権者が当然に又は直接法令の根拠に基いて有する公法上の権力に基くものであると解すべき場合が多い。ところで電話の利用関係は公衆法及びその他の法令と被告がその範囲内で定立した規則によつて規定されている。従つて原被告間の契約の内容は右の法令と規則によつて決定され、更に原被告間に電話の利用関係が継続中であつても国は右法令の改正により、被告はその法令の範囲内で規則の改正により、又は法令規則等の範囲内で被告の処分によつて、契約内容を変更してもこれを契約違反と云うことはできない。そこで規則を見ると第二百九十四条第二項は「定額料金制を度数料金制に変更し、又は度数料金制を定額料金制に変更したときは、その旨及び期日をその電話取扱局に掲示し、その電話取扱局所属加入者に通知する。」ことを規定している。定額料金制、度数料金制の一方より他方への移行は、公衆法第四十四条に定める電話取扱局の種類に変更があつた場合には同法第六十八条第一項別表第二によつて当然に起る場合がありうるから、規則第二百九十四条第二項はその場合のための規定ではないかとも考えられるが、規則の規定のうえからはそのように限定すべき根拠はなく、むしろ法律上当然の移行の場合だけではなく、被告の処分によつて変更する場合のあることを予想し、その場合のためにも規定されたものと解される。然し公衆電気通信事業は被告の独占事業で、人民はその利用を余儀なくされ、間接の利用強制をうけているから財政法第三条の規定に照らして、その料金は法律又は国会の議決に基くことを要し、法律又は国会の議決に根拠がなければ、被告の定立する規則又は処分によつてもこれを決定、変更することはできないものと解せられる。そこで公衆法の規定をみると、同法第四十四条は電話取扱局の種類を一級局乃至十二級局に分け、同法第六十八条第一項別表第二は度数料金制による場合として一級局乃至六級局について各級局毎に一定の基本料と度数料を定め、定額料金制による場合として五級局乃至十二級局について各級局毎に一定額の金額を定めている。従つてこれによれば五級局と六級局の電話料金については度数料金制による場合と定額料金制による場合とがありうるわけで、その双方について料金が法定されているわけである。尤も右両者の料金制度のうち一方から他方に被告が一方的に変更しうる場合については明文の規定はない。然し前述の如き電話利用関係の法律上の性格及びその内容を考えるときは、営造物権力の発動として定額料金制を度数料金制に変更する処分をなすために必要な法律上の根拠としては、公衆法の右条文の規定を以て足るものと解すべきである。これと異る原告の主張はその独自の見解であつて当裁判所のとらざるところである。よつて五、六級局においては電話加入者の同意なくして、被告の処分によつて定額料金制を度数料金制に変更することができるものと解すべきところ、山形電話局が五級局であることは当事者間に争いがないから、被告がなした度数料金制実施の通知が実質的な料金値上げで契約違反であるとする原告の主張は理由がない。次に原告は度数料金制による電話料金は極めて不合理であつて、かかる不合理な料金の支払を一方的に強制する原告の意思表示は権利の濫用であつて無効であると主張するけれども、被告のなした本件料金制度変更の結果仮に原告がその主張するように従前の倍額以上の料金を支払うこととなつたとしても、右料金を以て直ちに不合理な料金であると断定することはできず、又被告のなした料金制度変更の処分を権利の濫用と目することもできない。然らば原告の請求はその他の点の判断をまつまでもなく失当として棄却を免れない。よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本晃平 藤本久 岡田安雄)